2009年8月8日土曜日

卵−6

一人の看護婦が、殆ど放心状態の私に顔を寄せて、両手で両方のほほをつねりながら、「頑張ったね!」と優しく微笑んだ。
「うん」とうなずいてしまった。
馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!  何が「うん」だ!
お前、男だろ!
若い女の子に凌辱されて「うん」だと!
とにかく、消えてしまいたかった。

「先生、揃っています」
「じゃ、始めて」
看護婦がマスクつきの携帯用ボンベを持ってきた。
私の顔にマスクを当て、ボンベのバルブを開けた。
「はい、大きく息を吸って」
「吐いて」
「吸ってー」
「吐いてー」
、、、、5回くらいまでは覚えているが、そのあとは何も覚えていない。

「先生、OKです」
「それじゃーね、みんなで廃棄用トランクに詰めて」
「廃棄委託先はあのクリニックね」
「配達先も同じよ」
「詰め終わったらすぐに配達に回すのよ」

女医はそこで電話をかけた。
相手はこの病院の向かいにある、自分の経営するくりにっくである。
「あ、優子だけど、30分程で病院からトランクが届くから、届いたらすくに15回の優子の部屋に入れておいてね」
「部屋のカギはしっかりかけておいてね」

優子はちらっと壁にかかっている時計を見た。
「あと20分るわね、患者はいるの?」
「3人いますけど、1番と2番と7番なので先生はこれで終わりです」
「あそう、もうちょっとここにいようか」
「先生、聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「先生のクリニック、この病院と同じくらいに古いって聞いたんですけど」
「それほどでもないわ、この病院ができたのは2000年だけど、私がこの病院に勤め始めたのは2012年からなのね」
「当時この病院の周りに調剤薬局が4件あってね、その内の1軒が、2014年にイオンの1階に移転、あの場所が空き家になったのね」
「お父さんがその跡を買いとってクリニックを開いたのね」
「その2年後からかけもちを始めたのよ」

「じゃー先生はもう220歳くらいなんですか?」
「丁度ね、でも血液年齢は30歳よ」
「あなたはいくつなの?」

「私は卵からかえって22歳です」
「そうかー、貴女の年齢だと、卵からかえるのよね」
「自分たちの頃はね、胎児の恰好で生まれてくるのよ。2.5kg〜3kgあったのよ」
「生まれる方も楽ではないけど、産む方はもっと大変で、1日がかりで産道や膣を20cm近く押し広げて生まれてくるのよ」
「うわー、痛そう」
「それでち宮や膣が裂けて大出血で死ぬお母さんもいたのよ」
「かわいそう」

「今はいいわねー、1年に1回だけ、卵が出てきて、、。それも自動的にね」
「自分たちの頃はねー、男が膣の中で射精して、その中の精子の1匹が卵と結合、『受精』ということになったの」
「あんまり古い事なんで、学校では教えなかったと思うけど、いまは男は必要ないものね?」
「そうです、、、楽しみの道具の使い道だけね」
「古くなったら生ゴミで捨てるもの」

「そろそろ引き上げようか」
「お疲れさまでした」

優子が病院を出てクリニックに到着したのは午後4時であった。
クリニック入り口で受付の女性に聞いた。
「荷物届いた?」
「はい、 お部屋に運び入れてあります」
「いいわ、明日は休みだったわね、、、、じゃー、これから超多忙だから、連絡厳禁よ」

部屋に入ると、さっそくトランクを開いた。
中に私が眠っていた。
優子は部屋に貼ってある予定表を見た。
同じ病院の病棟看護婦の愛子の予定表であった。
「今日は夕方5時空けで、明日1日は休みか、じゃー2人で楽しもう」

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