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次の日、女医の元を逃げ出して、故岩山に向かう事にする。
同室の愛子が明日から泊まり込みなのと、優子が今日の夕方から出かけ、明日の夕方にならないと帰らないと言ったためである。
病院玄関の前はタクシー乗り場になっているので捕まえるのは楽だが、姿を見られる可能性が高い。
といっても札幌はタクシーの流しは殆どおらず、地下鉄の駅入り口とか大きな病院の出入り口とか大きなスーパーの出入り口にたむろしているのが殆どである。
空車で走っているのを見つけても、手を挙げてもまず止まらない。
そこで、50m程歩いて桑園駅の向かいのJUSCOの正面玄関の前に行くことにした。
タクシーでモイワヤマへ向かおうとするが、運転手から拒否される。
モイワヤマへは行ってはいけないことになっており、もし向かう人がいると、すぐに会社に連絡することになっている、という事だった。
行く先は知らないが、今まであの病院の近くから何人かの男性を乗せたが、みんな途中でパトカーにどこかへ連れて行かれた、とのこと。
「自分は丁度明日が67歳の誕生日で、今日限りで特別養護老人ホームへ入らなければならないので、今日一日だけの事だからあんただけは、助けてあげるよ」と言われた。
「西線の路面電車沿いにジーオンという病院があるから、その前まで連れて行ってあげる」、といわれた。
「タクシーは全部NAVIで捕捉、運航を会社のコンピューターに記録されているから、それとわかる所へ行く訳にはいかないのだよ」。
「病院なら、もしあんたが捕まっても、自分にも言い訳が立つからね」。
「そこから電車のモイワヤマロープウェイ駅まで10分も歩けばつくから」。
「ただし、昼間は山に登らないほうがいいよ、男がうろうろしているとすぐ捕まるからね」。
「暗くなってから登り始めるんだよ」。
「それと、モイワヤマに着いても道路を歩いて行ったら駄目だよ、パトカーが警戒しているし、夜間検問もあるからね」。
「もうひとつ、噂だけど、モイワヤマに迷い込んでいつまでも出られないと、そのうちに「石」になってしまうらしいよ、気を付けてね」。
「運転手さん、ずいぶん親切だね。それに訛りが無いね。」
「ああ、自分も、多分あんたと同じ運命だったんだよ。」
「丁度、60歳の定年退職であのモイワヤマの途中に家を建てて妻と2人で済むことにしていたんだけれど、竣工してから間もなく2階でパソコンを操作していたら、あの病院の駐車場に落ちてきてね。」
「60歳だったんで最初から「不合格」になって、そこから老人施設に送り込まれたんだけど、こうして運転手として働かせてもらってるわけよ、今日までだけどね。」
「お客さんの身の上はよく分かっているよ。、、、、、着いたよ。気をつけて行きな。」
裏通りをぶらぶら歩きながら、うす暗くなるのを待ってロープウェイ駅へ向かった。
モイワヤマはふもとから立ち入り禁止になっていた。
特別の警備はしていないようで、柵を乗り越えることは容易にできた。
ロープウェイ駅は閉鎖されているようだった。
門を超えて中に入り込み、ロープウェイ下を登っていくことにした。
太陽が沈みつつあり、すっかり薄暗くなっていたが、月の明るさは私の知っている明るさの2倍はあった。
ノートの文字なども普通に読めそうな明るさであった。
1時間ほど登ると、登山道らしきものに出くわしたので、そこを行くことにした。
30分ほど歩くと疲れてきたので、道端で腰をおろして休んでいた。
すると下の方から「スタスタスタ」と歩いてくる男がいた。
いったい誰だろかと、ちょっと身構えていると「しがない旅人でございます。お先に」と言って通り過ぎて行った。
なんだい、変な言葉を使って、「しがない」だと、、、、、「し」がない!
そうか、あの病院も「し」がなかった。
職員も、パソコン表示の文字もみんな「し」がない!
しがない、、、しがない、、、しがない、、、、「『死』がない」ということか!!
「死」がないから自分の受診カードも200年近くたっても有効だったのだ。
あの女医も自分の生年月日を聞いても不思議な顔をしなかったのだ。
途中で1人の老人が休んでいた、と思った。
よく見ると、人間ではなく石であった。
あっちにも、、、、こっちにも、、、、人間の形をした石が座っていた。
ここをさまよっても、いつまでも家に帰れずに、そのまま石になってしまったのか、、、、かわいそうに。
しかしここでのんびりと休んでいる訳にはいかない。
すぐに山頂を目指して登り始めた。

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